2012年10月19日金曜日

マイトレイ/エリアーデ


宗教学者が片手間に書いたものとは思えないほど、第一級の恋愛小説に仕上がっている。

インドに派遣された技術士のルーマニアの青年 アランと、 寄宿先である青年のインド人の上司の娘 マイトレイとの許されない恋。

アランがマイトレイと同じ家で生活するうちに、互いに少しずつ惹かれていき、罪だと感じながらも、抑えきれずに接触を深くしていく様子が、「エリアーデの日記」にみられるような緻密で繊細な文章で綴られており、読んでいて息苦しくなりそうなほど、官能的で濃厚な恋愛小説だ。

障害が大きければ大きいほど、タブーであればあるほど、恋は熱くなるという典型を描いているのだが、ぐいぐい引きずり込むような力があり、一気に読みきってしまった。

物語は、半分は実話に基づいており、エリアーデがインドに留学していた際に愛したマイトレイも実在の人物である。

そう思うと、物語の中で日記調に描かれている二人の恋の様子は、当時、エリアーデが書き留めた日記から引き抜かれたものに基づいているかもしれず、よりリアルな感じを受ける。

エリアーデというひどく内省的な男にとって、恋という化学反応により自分がどういう精神状態に陥るのかということは大きな関心事だったに違いない。

マイトレイにとっても、エリアーデとの恋愛は大きな事件だったようで、父親から、エリアーデが彼女を裏切って逃げ出したと説明され諦めて別の男と結婚したが、真実は、父親に追放されて、やむなく去ったことを 四十二年後に知ったことで異常心理に陥り、当時の恋愛の回想記「愛は死なず」を書かずにはいられなかった。

物語に出てくるマイトレイもそうだが、四十年の歳月を経てもなお思いが消えなかった実在のマイトレイにも、恋愛には、こんなにも強い力があるのだなと思うと、ちょっと怖い感じを受けた。


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