「IT投資によるテクノロジー装備だけでは、利益向上にはつながらない。なぜなら、何もルールが変わっていないからだ」というのが、本書のテーマといっていい。
IT投資をして、企業にどんなメリットがあるのか、突きつめていえば、「利益がどれだけ増えるのか」という疑問に答えるのは、意外と難しいのかもしれない。
本書でも、ERPソフト開発企業のCEOとグループ会社のシステム・インテグレーター企業のCEOが、突然、顧客から問いただされる。お宅のソフトを導入して、結局、利益はいくら増えたのか?と。
二人のCEOは、「企業活動が一元把握できる」、「決算レポートの作成が大幅に短縮できて、コストや作業が大幅に削減できた」、「トランザクションの処理コストが減った」ことなどを主張するが、顧客は納得しない。
この点について、本書に面白い記述がある。
企業のトップマネジメントが何を考えているか、知る由もない社員たちは、コンピュータシステムの専門用語を使って話し、
中間管理職のマネージャーは、生産性向上、コスト削減、リードタイム短縮といった用語を使って話し、
トップマネジメントは、純利益や投資収益率というような用語を使って話す。
この三階層の人々は、各々、別の用語を使っていて、実はお互いの用語が理解できていない。
特に社員や中間管理職は自分のフィールドの用語を別の用語に変換しなければならないという話だ。
二人のCEOは、自分たちのことばでは顧客を納得させることができず、数多くの導入効果(インボイスの印刷ミスの削減まで)を20個拾い上げたが、結局、顧客に説明できそうなものは3個だけだった。
この事をきっかけに、ERPソフト企業のCEOは、自分たちのソフトを使って本当に業績改善を実現できた企業は、ごく一部の企業であることに気づき、最も改善した一社のCEOに話を聞く。
そして、本当に利益を上げるためには、ソフトを導入するだけではなく、「古いルール」を見直さなければならないことに気づく。
「古いルール」とは、分かりやすく言うと、「部分最適化ルール」と呼ばれるもので、まだ必要なデータや情報が全て用意されていない状態で、意思決定をしなければならなかった際に活用されていたルールの事だ。
ERPソフトというものは、企業活動の全体最適化を目指すものだから、必然的に「古いルール」は適合しなくなり、最大の制約条件になってしまう。
この「古いルール」を取っ払って、新しいルールに変更することは、一般的には、ERPソフト企業、SIerの役割ではない。そして、言うほど簡単なことではない。
本書でも、顧客から、現場の幹部社員を説得することを、ERPソフト企業のCEOが頼まれることになる。
CEOは、顧客の批判的な幹部社員に対し、現状のルールを変更しないことによって生じた現実の問題を認識させ、新しいルール(基準)を自分たちに検討させ、決定させるように、巧みに誘導する。
ERPソフト企業のCEOは、これを契機に、「単なるテクノロジーを売るという考え方から、バリューを売る」という経営方針にシフトし、顧客の業務に踏み込んだ提案を行うことで、次第にシュリンクしてゆく売上を倍増しようと決意する。
これは、ちまたで言われている“ソリューション(解決方法)”の提供と同じ意味だろう。
日本のIT業界でも、“ソリューション”ということばが氾濫しているが、この本のような目覚ましい利益改善を行った事例はごく稀な事なのではないかと思う。
そして、このような働きを見せたERPソフト企業に、顧客は、さらに大きな仕事のチャンスを与えることになる。
ゴールドラットの本は、最初に興味本位で読み始めたが、意外と面白い。
本書では、今や懐かしい“西暦2000年問題”が話題として出てくる。
2002年当時の本ではあるが、今読んでも、大きな差異はない。
それは、この本がIT投資の本質を捉えているからだと思う。
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