ガルシア・マルケスが、「族長の秋」を書き終えた翌年1976年から1982年の間に書いた短編小説集。
その小説が完成する前、ガルシア・マルケスは、子供が使っていた学校用のノートに六十四のテーマを書き込んでいた。
しかし、そのノートを紛失してしまい、何とか三十の物語を再構成した。
さらに、そこから駄目になったテーマをふるい落とし、十八にしぼり、書き進める中で、六つがゴミ箱ゆきになった。
そうして残った十二編を、ガルシア・マルケスは、
「あとに残ったものはしかし、もっと長く生きられる息吹を得たようだった」と評している。
これらの短編小説は、ガルシア・マルケスがヨーロッパの都市 バルセロナ、ジュネーブ、ローマ、パリを巡った旅行の後に、もう一度書き直された。
そのせいか、ガルシア・マルケスが書く、いつもの南米の空気とは異なったヨーロッパの雰囲気を感じる。スタイリッシュというか、物語に抑制が利いているせいか、普通の小説家が書く小説のように感じるのだ。
ただ、ガルシア・マルケス特有の要素は、どの作品にも濃くあらわれている。
例えば、亡命した政治家を優しく世話してあげる夫婦を描いた「大統領閣下、よいお旅を」
あるいは、眠る女性への興味を描いた「眠れる美女の飛行」
超現実の世界を描いた「聖女」、「八月の亡霊」
ファンタジックな「光は水のよう」
老人の性愛を描いた「悦楽のマリア」
理不尽な運命を描いた「電話をかけに来ただけなの」、「雪の上に落ちたお前の血の跡」
1980年前後に、こんな小説をガルシア・マルケスがコツコツ書いていたのだ。
そう思うと、これらの小説の不思議な色に浸されて、記憶にあった80年代の様相や色合いが何となく変わってしまったような気分になる。
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