さしあたり、出来ることといえば、本を読み、見知らぬ土地を旅している幻想に浸ることぐらいかもしれない。
タブッキの「遠い水平線」も、そんな気分に浸れる小説だ。死体置き場で働いている主人公スピーノが、ある夜、運ばれてきた身元不明の他殺死体の男カルロ・ノーボディ(無名の意。偽名)の身元を調べようと、少ない手がかりから、死んだ男の痕跡が残るイタリアの市街を巡りはじめる。
訪れる場所ごとに小さなエピソードがあり、20章で区切られたそれらは事件に関係があったり、なかったりするのだが、どちらかといえば、そこで描かれる美しい静かな風景に心が癒される思いがする。
個人的には、主人公が女友達とバスに乗り、聖堂を訪れるシーンや、死んだ男が着ていたジャケットを作った紳士服のお店を訪れるシーンが、とても好きです。
タブッキの文章は、須賀敦子訳の美しい日本語に置き換えられて、時折、詩のように心に響く。
その夜、彼は夢を見た。
もう、何年も見なくなっていた、あまりにも遠いころの夢だった。
子供じみた夢、彼はさわやかで、無心だった。
夢をみながら、奇妙なことに、やっと、その夢に再会したような自覚があった。
そして、そのことで、彼は、解き放たれたように、もっと無心になった。
こんばんは。
返信削除出だしの美しい四行にココロが踊りました。
是非、「遠い水平線」や「インド夜想曲」「島とクジラと女をめぐる断片」を読んでみたいと思います。
都心の大型書店に行かないと入手し難い出版社っぽいですね^^;
今宵も素敵な文章と素敵な御本の紹介、有難う御座いました。
Mikiさん、こんばんは。
返信削除コメントありがとうございます☆
上記の3つの作品は、タブッキの小説の中でも、
どれも素晴らしい出来だと思います。
モーツアルトは、「ぼくは断言しますが、旅をしない人なんて、まったくみじめな存在でしかありません。」ということばを残していますが、旅というのは、実際に何処かに行くだけの意味でなく、想像力によって、ここじゃない何処かに行くこともできるんだと勝手に解釈しています。