カフカの作品の中でも、「失踪者」は、他の作品と比べると読んだ後の気分がずいぶんと違う。
例えば、「審判」や「城」といった作品では、主人公Kに対して、どうしても親近感を覚えることはないけれど(「変身」は微妙)、「失踪者」の主人公カール・ロスマンには、なんとなく応援してあげたくなるような親近感を覚える。
ひとつには彼が、アメリカという新世界のなかで、全面的に弱さをさらけだしているところに心を動かされるのかもしれない。
最終章のオクラホマ劇場の採用試験で、カールが最後の仕事のときに使った通り名「ネグロ」(黒人の意だと思われる)という偽名を名のり、「ネグロ、ヨーロッパの中学出身」として、技術労働者に採用される話などは思わず笑ってしまう反面、
カールがそれまで様々な苦難をくぐり抜けてきたに違いないという思いも過ぎり、いじらしさも感じる。
個人的には、サリンジャーの「ライ麦畑」の主人公以上に、カールの方が魅力的な存在に思えてしまう。
最初に「変身」ではなく、「失踪者」を読んでいたら、カフカの作品に近づく時間は、もっと短かったかもしれない。
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