しかし、原子力発電の是非を考えるにあたって、この本は目を逸らすことのできない問題を指摘していると思いました。
主な内容:
1.原子力をめぐる歴史
広島、長崎の原爆、マーシャル諸島ビキニ環礁における水爆実験、英国ウインドスケール原子炉の事故、米国スリーマイル島原子力発電所事故、ソ連(現:ウクライナ)チェルノブイリ原子力発電所事故、福島第一原子力発電所事故についての詳細。
2.平和のための原子力計画
米国アイゼンハワー大統領が唱えた「平和のための原子力」、すなわち「原子力を殺戮ではなく発電の手段にするため」の思想(真の目的は核兵器の開発)が、多くの国に受け入れられ、イギリス、フランス、日本、ドイツ、イスラエル、中国、インド、北朝鮮…と世界中に原子力技術が拡散していった経緯。1.について言えば、福島で起こったことは、すべて過去の事故で起こっていたということが、よく分かった。遅れる事故情報の公開、隠蔽される真実、説明責任を果たさない政府、被災者に対する不十分な補償などは、チェルノブイリでも同様な事が起きていた(ゴルバチョフ政権下だった)。また、東電が、炉心溶融をなかなか認めなかったように、スリーマイル事故のときにも、技術者は「最悪の事態を考えたくない」と思って行動していた。
(チェルノブイリの事故の記述は、被爆した人々の状況が、本当に悲惨なものであることが分かる)
2.について言えば、原子力の平和利用が、実は表向きの姿勢にすぎず、本当のところは、最終的に核兵器を製造できる手段(核による抑止力)を確保するための言い訳であること(日本やドイツもこの立場)を、容赦なく指摘していることに、正直、ショックを受けました。
まさかと思う一方で、国や政府の原子力政策に対する疑問(安全と採算を度外視した原子力発電への肩入れの理由)が氷解した思いがした。
池澤夏樹氏が解説で指摘しているように、上記の問題を踏まえたうえで「原子力の平和利用」を継続するのかどうか、国全体での公開された議論が必要なのだと思った。
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