2020年10月12日月曜日

戦う操縦士/サン=テグジュペリ

1940年5月23日、サン=テグジュペリは、ブロック174型偵察機に乗って、ドイツの占領地であるアラスの上空を偵察飛行する。

当時、ドイツ軍がベルギーとオランダに侵攻し、5月15日には、フランス北東部の国境を突破していた。

サン=テグジュペリは、この偵察飛行を、最初、全く無意味なものだと断じている。
フランス軍の情報伝達系統は麻痺しているため、偵察して持ち帰った情報は司令部に一顧だにされないだろうと。ただ、戦争が始まった以上、司令部は部隊を動かす必要があるから、自分たちに偵察飛行という命令が下ったのだと。

ドイツ軍戦闘機との遭遇、激しい対空砲火、高度一万メートルへの退避と少ない酸素供給で意識が遠のく過酷な状況。
死が近くなる時、人はフラッシュバックのように人生を垣間見るというが、サン=テグジュペリも戦死したり負傷した同僚のこと、基地や宿営地での生活を思い出す。なかでもオルコントの農家で寝床から這い出て暖炉に火をつけるシーンが暖かい。

そして、サン=テグジュペリは、この激しい戦闘と死への接近を通して、なぜ自分が死ななければならないのか、誰のために、何のために死ぬのかという疑問への答えを見つけ出す。

ある意味、この物語ですごいのは、この「アラスの啓示」を受けて、物語後半に繰り広げられている倫理的・哲学的思考の過程だろう。その強固な言葉から感じる意思は、サン=テグジュペリの神への誓いの言葉のように私には思えた。


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