2020年10月11日日曜日

花子/森鴎外

花子は、明治期、約二十年欧米を巡業した女優又はダンサーの福原花子(本名 太田ひさ)のことで、フランスの彫刻家ロダンは、彼女をモデルに彫刻作品を約六十点ほど残している。

この小説は、その花子とロダンの出会いの場面を描いていて、ロダンの仕事場に彼女を連れてきた通訳の久保田という男は、花子が別品ではなく、もっときれいな女を紹介したかったと思うが、ロダンは彼女の無駄がない筋肉質の体を見て気に入り、裸になってくれるように頼む。

ロダンがスケッチをする間、久保田は席を外し、書籍部屋でボードレールの「おもちゃの形而上学」を読み、時間をつぶす。

その「おもちゃの形而上学」には、子供がおもちゃで遊んでいて、しばらくするとそれを壊して見ようとする習性があり、それは、おもちゃの背後に何物かがあると思い、それを見てみたいという衝動に駆られるからだと書いてあった。

ロダンがスケッチ後、久保田を呼び戻し、何を読んでいたかを尋ね、「人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の上に透き徹って見える内の焔(ほのお)が面白いのです。」と言うところが、この小説の主題だろう。

最後に、ロダンが花子の筋肉や骨格の特徴を述べ「強さの美」と表現するが、それは体だけの事ではないのだろう。

この作品を読んで、夏目漱石が書いた「夢十夜」の第六夜 運慶が彫る仁王の話を思い出した。

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