2020年10月10日土曜日

杯/森鴎外

この短編は、人は人、自分は自分という極めてシンプルな主張に収斂されるのだろうが、7人の女の子たちの持っている銀杯に「自然」の二字の銘があることや、その字が「妙な字体で書いてある。何か拠りどころがあって書いたものか。それとも独創の文字か」と述べている点を考えると、やはり、7人の女の子たちは自然主義文学の作家を表象しているものと考えられる。

謎なのは、8人目の女の子で、7人の女の子たちよりは少し年上の青い目をした西洋人との相の子として描かれており、銀杯とは対称的に小さいくすんだ黒い杯を持たせている。しかも、この子が話す冒頭の主旨の言葉はフランス語なのだ。

8人目の女の子は、鷗外自身というよりは、鷗外が、西洋から学んで本来伝えたかった文学の理想形を表していると思った方が理解しやすいかもしれない。

この当時、これほど自然主義文学に勢いがあったのかというのが正直な印象だが、鴎外が、はっきりと自然主義文学の作家たちと距離を置いていたことは伝わってくる。




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