2020年9月14日月曜日

蛇/森鴎外

森鴎外が明治四四年(一九一一年)、四十九歳の時に書いた短編小説。

鴎外と思しき主人公が信州の山の中の豪家に泊まった時の話で、実話かどうかわからない。

作者が蚊が寄ってきて眠れないでいると、女の独り言のような話し声が聞こえる。
ふっと現れた豪家の番頭のような爺さんと若い主人が、その家(穂積家)で起きた事を話し始める。
先代の主人の妻が亡くなって四十九日目であること、その姑と今の主人の美しい妻との折り合いが悪かったこと(もっぱら美しい妻に原因があるように書かれている)、姑の初七日の日に妻が線香を上げようとしたところ、仏壇に蛇がとぐろを巻いていたこと、それを見た妻が発狂してしまったこと。

そして、鴎外は、その蛇はまだ居るのかと爺さんに聞き、仏壇に居座っている蛇を素手で取り上げ、持参していた魚籠に入れてしまう…という物語だ。

面白いのは、蛇を始末した結果、妻の様子がどう変わったとかの説明はなく、ただ、主人と爺さんに、東京の専門の精神科医に見てもらったほうがいいと助言するところで、物語が終わるところだ。
(魚籠に入れた蛇をどうしたかも何も書いていない)

怪奇小説という訳でもないこの終わり方が面白い。

鷗外のような実務的かつ医学者にとっては、妻が姑の呪いに狂ってしまったとか、蛇が姑の怨念を示しているといったオカルトティックな考えはあり得ないものだったのだろうか。(夏目漱石が書いた同じタイトルの「蛇」とは実に対照的だ)

一方でリアリティを感じてしまうのは、やはり、嫁姑の不仲に対する鷗外の考え方だろう。鷗外が実は年下の美しい妻にどういう思いを抱いていたか、そこはかとなく伝わってくる。

県庁の指示で、学者である森鴎外を宿泊させる地方の有力者の家という背景も、明治時代を感じさせて面白い。

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