2018年10月28日日曜日

エディプスの恋人/筒井康隆

本作では、火田七瀬は地方の進学高校の教務課で働いている。
そして、その高校で、一人だけ異質な精神構造をした不思議な「意志」の力で守られている男子生徒を見つける。

野球のボールが彼にぶつかりそうになれば、寸前でボールがさく裂し、
彼を殴ろうとした同級生は空のプールに突き落とされる。

彼が念動力を持っているわけではなく、何かの「意志」が彼を傷つけようとする者から守っているのだ。

興味を持った七瀬は、彼の謎を探るため、画家である彼の父親の絵画展に行ったり、その故郷まで訪れ、不思議な「意志」の力の発現が彼が子供だった頃に起きた母親の失踪と関係していることに気づく。

そして、突然、彼と激しい両想いの恋に落ちる。
付き合い始めた二人の関係を邪魔する男たちは「意志」の力によって酷い目にあわされ、存在すら消されてしまう。

彼を守る「意志」の力とは何なのか?
七瀬は、彼の父親と会い、その真相について知らされる。
それは、神の存在に近い「宇宙意志」の存在だった...

「意志」の望みに従うことで、「宇宙意志」の意識さえ体験した七瀬だったが、自分の生きる世界に現実感を失くしていく。

しかし、「意志」が七瀬に現実感を与えようと、彼女が失っていた超能力者の仲間たちとの記憶をよみがえらせたことで、七瀬は本来の自分に覚醒する。
彼女のクールな知性は、「意志」が用意した超能力者の仲間たちとの再会の矛盾を、そして、自分の存在すら現実のものでない可能性があることを見破ってしまう。
その知性は、まぎれもなく前作「七瀬ふたたび」で見えない組織と戦っていた頃の彼女の姿だ。

七瀬は「意志」の言いなりになって、現実味のない生き方を強いられるくらいなら、この物語「エディプスの恋人」を早く終わらせてしまおうと自ら決断してしまう。
こんな物語の終わり方は聞いたことがない。

作者が愛した気丈な女性は、作者の言いなりにすらならなかった。

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