「時計だらけの男」は、列車で起きた殺人事件を描いたミステリだ。
喫煙車両に乗った赤ら顔の男とその隣の客車に乗った背の高い男と、連れのこれまた背の高い女性。
駅に着いたところで、駅員がこの3人の乗客が消えうせた事に気づく。
そして、その代わりに見慣れない若い男が胸をピストルで撃ちぬかれ、死んでいることに気づく。
「消えた臨急」同様、この作品でも、名のある犯罪研究家による推理が新聞へ投稿されるのだが、その推理に対して上記3人のうちの一人がリスペクトするような返信を犯罪研究家に送り、真実が明らかになる。
この説明のなかで、ひときわ印象的なのが、カード使いのいかさま師 スパロー・マッコイの名前である。いかにも悪党らしい豪胆な名前のイメージがあるが、物語の中では実はそう悪い人間ではないのではないかという一面を見せる。
本当の悪人などいないという結末。読んでいて決していやな気持にならない。
「漆器の箱」は、妻を亡くし、孤独で容易に人を寄せ付けない貴族の家に住み込み、家庭教師を務めていた私が知った主人の秘密についての話。それは主人が宿泊先にも持っていくという黒い漆器の箱の中にあるらしいのだが。
当時の工業製品の普及状況がわかる作品だ。
そして、ここでも、本当の悪人は登場せず、むしろ隠れた美談を聞いたような気分になる。
漆器の箱が、英語ではThe Japanned Boxと表記されているのが面白い。
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