この作品は、とても興味深く読んだ。作者特有のパロディ、ブラックユーモア気質が見られず、シリアスな仕上がりになっているからだ。
最初の「邂逅」で、テレパスの七瀬が雨の山間部を走る電車の車両の中で、三歳児のテレパシスト トシオと、予知能力者 恒夫と出会う話。
今にも脱線しそうなあぶなかっしい電車の中で、七瀬の超能力によって、あからさまになる乗客の厭らしい思惑や、テレパシスト同士の言葉を介さないコミュニケーションの様子が、括弧を応用した文章の構成で生き生きと描かれている。
「邪悪の視線」では、高級バーでホステスとして働く七瀬が、透視能力を持つ邪悪な男と対決し、危ういところをテレキネシスを持つ黒人のヘンリーに助けられる話だが、これもバーのホステスたちの敵意が見え隠れする関係、客の厭らしさ、透視能力を卑劣な悪事に使う男の欲望が生々しく描かれている。
「七瀬 時をのぼる」は、七瀬が、トシオとヘンリーとともに北海道に行こうとするフェリーの中で、タイムトラベラーの藤子と出会い、殺人事件に巻き込まれたことで彼らの超能力が気づかれそうになった危機を、藤子に救われるという話。
ここまで登場した超能力者たちが、「ヘニーデ姫」「七瀬 森を走る」の章で、警察を巻き込んだ超能力者狩りの組織から命を狙われることになる。
この組織については物語中、何も説明されていないことと、超能力者たちの能力を無力化できる力を持っていることが示唆されていて不気味な印象がある。
物語の最後は悲劇的だが、七瀬はとても魅力的なキャラクターなので、これ以外の小説を探したら、この小説がちょうど真ん中の「七瀬三部作」であったことにようやく気づく。
特に最初の「家族八景」を読んでいなくても、この小説からはじめて問題ないと思う。
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