空蝉(うつせみ)の編は、前編「帚木(ははきぎ)」で、光君が一度は関係を持った臣下の紀伊守の父である伊予介の若い後妻である空蝉に、つれなくされたことを悔しく思い、再び、彼女に近づく機会をうかがい、伊予介が屋敷を留守にするタイミングを狙い、空蝉の年の離れた弟 小君(こぎみ)を使って、彼女の寝室に忍び込もうとする話だ。
しかし、忍び込もうとする光君に気づいた空蝉に逃げられ、彼は誤って紀伊守の妹の“西の対の女”の床に入ってしまう。
面白いのは、別人と気づき、空蝉を恨めしく思いながらも、光君はいかにも西の対の女と契りたいという体裁を装い、愛し合うという行動だろう。単なる好色さといっていいのか、女性全般に対して常に礼を失しない律儀さなのかは判断が迷うところだ。
しかし、夜、顔もはっきりとは見えない誰とは分からぬ男性を向かい入れるこの時代の女性の気持ちとは、どういったものだったのだろう。
夕顔の編は、光君が六条御息所という光君より身分の高い年上の女性のもとに通っていた時分、彼の乳母であった尼のお見舞いに行った際、光君をみかけた隣家に住む女から届けられた扇に書かれた和歌から話がはじまる。
光君は、自分に和歌を届け関心を示した素性も知らない女 夕顔のもとに通うようになる。
正妻のいる左大臣の所も足が遠のき、六条御息所との関係も行き詰まり、空蝉とは会えないというストレスから逃げるように、彼は、夕顔に没頭するが、夕顔が住む家の隣家が騒々しいため、夜、人知れぬ空家に彼女を連れ出し、愛を交わそうとする。
しかし、その空家で、夕顔が生霊(六条御息所と思われる)に取りつかれ殺されるという事件が起きる。
生霊を目にして、この事件の恐ろしさに打ちのめされた光君は寝込んでしまうのだが、作者は彼を廃人にしようとはせず、まるで一過性の罰を与えたかのように、回復させて魅力的な男に再生させる。
光君は、普通、身分の低い女の死に、そこまで関わらないものなのかもしれないが、死んだ夕顔の使用人であった女房の世話をしたり、葬式をあげて弔うなど、手厚い対応をしている。
物語の最後、自分を散々苦しめながら、夫の伊予介とともに任地に旅立つ空蝉に対しても、多すぎるほどの餞別を与えるところも彼の優しさが垣間見える。
この情け深いところも、光君の魅力という事なのだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿