個人として身近にいる人との過去の軋轢、怒り、悲しい思い出。それらをまだ許すことのできない自分。
国家として戦争を仕掛け、侵略した過去を忘れて未来志向の関係を築きたいと繰り返すが、それらを許してもらえない隣国。
もし、過去をすべて忘れることができたら、どれ程、人類は不要な戦火を逃れることができたか、個人として人を許し、許され、幸せになれたかという思いがよぎる。
この小説では、雌竜のクエリグの吐く息が、イングランドの人々の過去の記憶を奪うが、それによって、老夫婦の悲しい思い出、ブリトン人とサクソン人の争いぬから生まれた怒りや復讐が消え去り、傷を癒すように関係を修復することができた。
その竜を退治し、過去の記憶が蘇った時、「かつて地中に葬られ、忘れられていた巨人」が復活したとき、人々はどう振る舞うのかという、実に重いテーマを、この小説では取り上げている。
最後、記憶を取り戻した老夫婦が、息子がいた島に、二人一緒にたどり着けたのかどうかが、とても気になる。
結末を書かなかったのは、おそらく、その判断を読者に委ねているからではないか。
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