また、その一方で、光君は、病気にかかって宮中を退出した藤壺の宮となかば強引にふたたび逢瀬を交わす。
読者は物語の流れで行くと、ここで初めて、光君が藤壺の宮(自分の父の後妻で亡き母と瓜二つ)と強引に関係を持ったということを知らされる。
この本の解説にも出ているが、光君と藤壺の宮がそのような経緯になった編が本当はあって、何らかの理由により削られたのではないかという説があるが、いったい何だったのだろう。
いわゆる母子相姦というモラルを破ったという理由であれば、例えば、紫式部のパトロンであった藤原道長の指示で、物語の筋自体が変更されそうなので、別の理由だったのかもしれない。
そして、この物語のさらに大胆なところは、藤壺の宮が懐妊し、その父が光君らしきこと、また、光君が、天子の父になるという夢を見るというところだ。
そんな大問題を引き起こしておきながら、光君は、若紫を自分の元に向かい入れ、男女の関係こそないが、自分の懐に入れて可愛いがる。
光君が美男子だからこそ、物語になるかもしれないが、一歩間違えば、権力を笠に着た変態男子といっていいかもしれない。
末摘花は、光君のかつて乳母だった女性が知っている、荒れ果ててさみしい邸に住んでいる姫君に接近しようとする物語だ。この光君の物好きな漁色家と言ってもいい一面が垣間見える物語だ。
おかしいのは、光君に容易に会おうとしない姫君に熱を上げ、いざ、会ってみたら、気の利いた会話や歌詠みもできず、胴長で顔の下半分がやけに長く、鼻先が赤いという姫だったというオチだ。
それでも、この光君の奇妙なところは、一気に興ざめにならず、姫君に同情し、贈り物をして生活を支えたり、歌を詠んだり、さらには一晩泊まるような行為までするところだ。
おまけに、姫君の赤い鼻をもじった歌を詠んだり、若紫との遊びで自分の鼻に赤い色を塗り、その珍妙さを楽しだりしている。
悪趣味といえば、それまでだが、こういう人を馬鹿にしたようなゴシップは、今も昔も人々に好まれることを、紫式部は知っていたのだろう。
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