むくわれることのない恋をして嫉妬に苦しめられている男が見た月について書かれた短編小説『月』を読み返している作者が、その物語に次々と新しいイメージを追加してゆく。
靴、生垣、犬、商店街、砂岩段丘、小道...
そして、話は小説に戻り、男が獣医の妻を送る道すがらに見た月の場面に戻る。
どこまでが男の書いた小説で、どこからが作者が付け加えたイメージか判別できない。
私は書いて、それからそれを読みかえす。書かれたことと記憶は入り混り、新たな記憶が増えながら消え去り遠ざかることを怖れつつ願いもしながら、読みかえす。男が獣医の妻を忘れるために、あるいは記憶に焼きつけるために行った作業。
読みかえしとイメージの追加による新たな記憶の増殖。
その男の行為を作者が想像の中で再現し、文章に残すとこういう作品になるのだろうか。
たぶん、誰かに恋している時に読むと、伝わってくるのかもしれない。
その熱に浮かされた苦しい陶酔感のようなものが。
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