母親が子供を寝つかせる時に話す物語。
しかし、それは『おまえのお父さんはまだ帰らない』からはじまり、他国に徴収され、不在となった父が、頭のない鳥となって家族のもとに戻ってくるという、どこか呪術的な話である。
作者が母から聞いた『お話』は、祖母から母に伝わったものであることがわかる。
そして、作者は、その『お話』をアイヌの民話集に見つけ、祖母の出身地が青森であったことから、祖母がアイヌの少女と海岸で知り合い、この『お話』を聞かされた場面をイメージする。
実際には祖父は工場の機械に頭を押しつぶされ死に、父は若い女と出奔していなくなった訳であるが、祖母も母も無意識のうちに、この物語を子供たちに伝承していった。
作者も死んだ弟が頭のない鳥となって彼女を訪れる話を子供たちに聞かせはじめる。
祖父、父、弟の死を通し、自分の夫、そして長男でさえ、作者にはいつか失ってしまうのではないかという恐れを抱きながら。
はたして、彼女たちが子供に語った『お話』は、男たちへの鎮魂の意味が込められたものだったのだろうか。
ひょっとすると、そこには自分を置いてけぼりにした男たちへの深い深い恨みが込められたものだったのかもしれない。
この解釈は、作者が太宰治の娘だったことも影響していると思う。
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