2017年8月6日日曜日

イシが伝えてくれたこと 鶴見俊輔 近現代作家集 III/日本文学全集28

短いエッセイだが、文明批評という大きなテーマを扱っており、なにより、イシと呼ばれる原住アメリカ人のエピソードが心に残る。

自分の一族を絶滅させた白人たちの世界で暮らしながらも、自分の価値観と知恵を持ち続け、同化しない。

そのイシを理解し、対等に付き合うことができた博物館長のアルフレッド・L・クローバーは、イシの死後、白人が原住アメリカ人に対して行った蛮行を思い悩み、その影響を受けた妻シオドーラは、アルフレッドの死後、「イシ」の伝記を書き、娘のアーシュラ・K・ル=グヴィンは、作家になり、「ゲド戦記」やSFを書いたというのも興味深い。

もう一つ興味深いのは、欧米文明との接触という点で、日本とイシの立場を比較しているところだ。
イシの場合には、弓も矢もほんとうに手にくっついたように動かせるのだが、そういう関係を我々は物に対して持っているだろうか。...
亡くなった高取正男が、「形見」という言葉を分析している。物を見て形を見ることができる。そうすると呼び戻せるという。ある物を形見にするというのは、その形を見る力を持っていなければ、母の遺品も形見にはならない。そういう力がおとろえていけば、形見は意味がなくなって、何の形見もない暮らしになっていく。その点では、イシの持っている世界に比べて、我々は明らかに貧しい。そのことは現代文明に対するイシの批評であり、イシを受け継いでいるル=グヴィンの批評なのだ。
イシは、欧米の文明に対して、自己選択の態度を保って対した。日本文化はそう対しえたか。それは疑わしい。
私は、まともに「ゲド戦記」を読んだことはなかったが、作品には欧米文明に対する批評が込められているらしい。

最近、カルロス・カスタネダの「ドン・ファンの教え」を読んでいて、これも一種の欧米文明に対する批評という気配を感じるが、同じテーマで、また、読みたい本が増えてしまった。

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