題材は、何とジャンヌ・ダルク。
物語は、 ジャンヌ・ダルクが囚えられ、処刑される日からはじまる。
彼女は、自分がそんな運命に陥ってしまったことが、まだ受け入れられない。
何故なら、彼女は神の啓示を受けたからだ。
そして、彼女が最初に啓示を受ける前の、まだ普通のフランス農民の十三歳の娘だった頃まで、時は遡る。この物語の特徴的なところは、二つあって、先ず第一に、歴史的背景として、百年戦争を取り扱っていることだ。
フランスの王位継承をめぐるイギリスとフランスの争いの背景(家系図、人的関係、年表、地理)は、かなり、ややこしい。これを漫画の中で取り上げて分かりやすく説明するのは至難の業だと思う。
今まで歴史物を多く取り上げてきた山岸凉子だが、この作品はチャレンジといっていい。
第二に、ジャンヌが受けた神の啓示をどう描くかである。
教会の屋根から注ぐ光、風とともに現れた空から見下ろす眼、波動とともに現れる天使、脱魂状態。そして、神の告げる言葉。これらを漫画で表現するのも相当に難しいと思うが、山岸凉子らしい“異形な神”を描くことに成功していると思う。
また、上手いと思うのは、ジャンヌが一方において現実から逃避したい背景を抱えていたことを描いていることで、これによって、読者は、ジャンヌは確かに啓示を受けたかもしれないと思うこともできるし、精神的に追い詰められた彼女が見た幻ではないかと思うこともできる解釈の幅を持たしていることだ。そのせいで、この物語は“神と人間の関係”という宗教の根幹部分(およそ普通の漫画では取り扱うことのない領域)に足を踏み入れている感がある。
まだ一巻しか出ていないが、今後の展開が楽しみな作品だ。
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