2014年12月23日火曜日

現代世界の十大小説/池澤夏樹

タイトルが、若干、大仰すぎる気がするが、簡単に言ってしまうと、現代の世界文学の手引きのような本だ。

その世界文学も、池澤夏樹編集の世界文学全集の作品がベースになっており、これに、「百年の孤独」と「悪童日記」を加えた10の作品のあらすじと作品の特徴、背景などを説明している。

◎ 百年の孤独 / ガルシア・マルケス

◎ 悪童日記 / アゴタ・クリストフ

◎ マイトレイ / ミルチャ・エリアーデ

◎ サルガッソーの広い海 / ジーン・リース

◎ フライデーあるいは太平洋の冥界 / ミシェル・トゥルニエ

◎ 老いぼれグリンゴ / カルロス・フエンテス

◎ クーデター / ジョン・アップダイク

◎ アメリカの鳥 / メアリー・マッカーシー

◎ 戦争の悲しみ / バオ・ニン

◎ 苦海浄土 / 石牟礼 道子

面白いのは、各々の作品の扉のページに、作者の顔写真と生まれた国、作品の舞台となった国が表示された世界地図が掲載されているところだ。

これをみると、南米コロンビア、ハンガリー、ルーマニア、インド、ドミニカ、ジャマイカ、イギリス、パリ、南洋の島、パナマ、メキシコ、アメリカ、アフリカのどこかの国、フランス、ベトナム、日本と、様々な国に触れていて、いわゆる昔の世界文学全集の大半を占める欧米、ロシア文学の偏りとは対照的な構成になっている。

池澤夏樹 個人編集の世界文学全集は、「即戦力の文学」、「国境、言語を超えた普遍性」、「世界そのものを直接理解できるような資質」を持つ作品という基準で選択された。

そして、第二次世界大戦後、それまで抑圧の中にいた二つの存在である「植民地」の人々と「女性」の強い表現意欲によって書かれた作品ということらしい。

この2つの要素は、ポストコロリアリズム(植民地主義以降)、フェミニズムという言葉で説明されている。

ポストコロリアリズムと言われても、ピンとこないのが普通の日本人だと思うが、紹介された作品を読んでいくと、世界には、国境があり、出身国による階級があり、他人の前では、自分のアイデンティティを説明しなければならない場面がある。
むしろ、それが普通なのだということが分かる。

ある意味、これらの作品には、日本という国を客観的に見るための見識と教養が詰まっていると言ってもいいかもしれない。

本書の末尾でも書かれていたが、小説という媒体は、相当のことができるのだなという気がする。
その特徴を、池澤さんは、「ぼくたちが考えるたいていの問題は小説という思考のツールによって解決とは行かないまでも記述と解析ができる」と評している。

また、一つの問題について賛成・反対の両論併記ができる点と、百年という時間も扱うことが可能であるという点も。

小説という媒体は、まだまだ捨てたものではない、そんな気がしてくる。

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