冒頭の片岡義男の絵本に関する説明がいい。
絵本とは、ごく簡単に言うなら、現実にはどこを探しても存在していない世界のことだ。それは想像力によって頭の中に作られていく世界だ。一冊の絵本という具体物とはまったく別に、その絵本をきっかけにして、僕の想像力は刺激を受け、その刺激によって、頭のなか以外のどこにもない世界を、作っていく。
幼い子供は、自分の頭のなかに想像力というものを作らなければいけないことを、本能的に知っているのだと僕は思う。身のまわりにあるものをとおして、幼児は必死に想像力を育てる。この本能的な必死さを、すっかり失ってしまった人たちが、いわゆる大人と呼ばれる人たちなのだろう。
本書で紹介されている本は、すべて英語圏の絵本というところが、片岡義男らしいと言えば、それまでだが、若干残念ではある。
面白いのは、片岡が絵本について、ただ単に可愛い、愛らしい、楽しい、愉快な夢のような世界を提示するだけのものではなく、社会の基本的な理念に沿って、子供たちを厳しく教育していくという教科書的な役割を重視している点だ。
ABC、文章の構成、数の数え方などを教えるのはもちろん、子供たちが個人的な主観の世界から抜け出て、社会のなかで普遍的に機能する価値観や理念を、しっかりと身につけるために、絵本の役割はあるという考え方が述べられている。
本書は、片岡が趣味でコレクション的に集めた絵本を、オシャレな感じでまとめただけの本のように見えるが、実は日本の教育の現状と、理念がない社会について、質の高い絵本を豊富に生み出し続けている英語圏社会と比較し警鐘を鳴らしている、とても硬派な本なのだと思う。
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