幻魔大戦 第七集(平井和正ライブラリー)は、角川文庫版でいうと、19巻と最終巻である20巻を収録している。
ここでの見所は、高鳥慶輔が、東丈の組織作りを真似て、真の救世主を気取りはじめたところを、詳細に描き始めたところだろう。
我々が新興宗教に持つイメージに近い世界が描かれている。
弟子に課す絶対服従、女性支配、他の教団へのスパイ潜入、マスコミを使ったイメージアップなど。
一方、経済界の重鎮を後援者につけた郁江率いるGENKENにも不協和音が立ち込める。郁江の周りを"宮内庁"と揶揄される秘書グループが取り囲む体制ができるなど、会の運営が次第に独善的なものになっていくことを、東三千子、木村市枝、田崎、河合康夫などが感じはじめる。
東丈が失踪してから二ヶ月も経っていないのに、すでにGENKENという組織は崩れ始めていた。
幻魔と戦う前に、身内の中で自滅しようとしている人間の愚かさ。
結局、東丈は物語には復帰せず、その代わりに、姉の三千子が丈に匹敵するような霊能力と人格を発揮しはじめる。
猛火の中の東三千子を杉村由紀が幻視していたように、東三千子はアニメ同様、幻魔に殺されるのではないかと思っていたが、物語の最後では、彼女が主人公のような立場になっている。
あるいは、東丈は杉村由紀が幻視した三千子の未来を変えるため、自らの姿を消したのかもしれない。
では、東丈に変わる救世主は三千子が務めることになるのだろうか。
真幻魔大戦では、具体的なことは説明されていないが、1968年に、幻魔の侵攻により人類はあっけなく滅亡した事実が述べられている。
これは、東丈の不在により起きたことなのだろうか?
あるいは東丈は数ヵ月後にはGENKENに戻り、本格化する幻魔との戦いに身を投じたのだろうか?(個人的には、そのような可能性はないと思っている)
この物語は20巻の最後の時点で1968年の年初の時期までが描かれている。
作者は、ここまでの物語を第一次幻魔大戦と呼び、以降、第二次幻魔大戦(ハルマゲドン)という続編を書き始めるが、そこでも物語は前進しない。
まるで、ハルマゲドンの到来を恐れるように、新興宗教かぶれの大物の悪ともいえない器の高鳥と、組織の内紛にゆれるGENKENを際限なく描く。
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