おそらく、この10巻目が小説版 幻魔大戦、すなわち東丈がニューヨークのルナ姫たちと別れ、GENKENという組織を作るという独自の展開をみせた物語の、ひとつのピークであったことは間違いない。
言うまでもないが、子宮ガンに罹った井沢郁江が手術を前に病院から失踪し、大峰山脈で一人祈っていた東丈の前に現れた奇蹟の場面である。
それは、恋愛小説で、ようやく主人公が好きな相手と再会し結ばれる瞬間を読んだのと近い感覚がある。
久々に出会った二人が交わす東丈と井沢郁江の言動は、いかにも十七歳ぐらいの等身大のもので、読んでいて微笑ましいし、二人が手をつなぎながら、日輪を臨みながら空を飛ぶ最後の場面もすがすがしい。
就中、そのような感動的な場面でありながら、当の郁江が一面では冷めた意識を失っていないところが好感が持てるのかもしれない。
しかし、丈を信じつつも、その信を離れて自分を衝き動かそうとする力が自分に内在していることを、今この瞬間にも郁江は意識せずにいられなかった。この第四集では、江田四郎に追われた女優を助けることがきっかけで、悪魔的な超能力を発揮しはじめる高鳥と、東丈と心の距離ができてしまった秘書 杉村由紀、目的は分からないがGENKENに戻ってきた久保陽子の姿も描かれている。
物語は、どんどん横軸へと拡大し、さまざまな登場人物が立ち現れるが、肝心のハルマゲドン(世界の終わり)への縦軸には進まない。
そのような思いに駆られるのが以降の物語の印象だ。
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