幻魔大戦 第三集(平井和正ライブラリー)は、角川文庫版でいうと、7巻から9巻までを収録している。
この巻では、東丈の最初の支援者であり、崇拝者であった久保陽子が、丈への濁った独占欲から逃れられずにいたところを幻魔の手先となった江田四郎に騙され、拉致されたいたところを、東丈と三千子、井沢郁江、田崎宏が助けにいくという展開からはじまる。
久保陽子に対して江田四郎の行った変質的な行為の記述は避けられているが、三千子がみた幻視によると、内面から幻魔に食い荒らされてしまっているという物語的にはショッキングな展開である。
しかし、私にはどうしても盛り上がらない感じを覚える。
最大の理由は、江田四郎という人物の書き方で、幻魔という別のものに変化してしまっているからかもしれないが、悪人としてあまり魅力的でないのだ。これは作者があまり愛情をもって描いていないせいだと思うが、紋切り型の十九世紀的悪魔とでも言おうか、あまりにも古い印象の悪魔なのだ。(平井和正は、悪人を描くのがとても上手い作家であると思う)
それは、井沢郁江を逆恨みした久保陽子が、毎晩午前二時の丑の刻に、憎悪の念(黒いボール)を井沢郁江に送りつけ、子宮ガンにさせたという状況、それと東丈が対決したときのシーンも同様である。悪の描き方としてはどこか紋切り型だと感じてしまう。
文句ばかりになってしまうが、東丈の講演の様子も、今ひとつ魅力に乏しい。
救世主の講演というイメージを作ろうとする作者の努力は感じるが、話す内容も常識的だし、やはり画一的な印象がいなめない。
もっとも、この講演がきっかけで、二人の重要な人物が現れる。
一人は、丈の新たな秘書となるテレパシストでもある杉村由紀と、もう一人は、後に幻魔化していってしまう好青年 高鳥慶輔である。
この物語中、もっとも面白かったのは、東丈と高鳥慶輔の議論の場面と言い切っていっていいだろう。ここでは、高鳥の質問に答えて、東丈が何故、組織不拡大の方針を貫くのか、超能力を実際に披露してマスコミでアピールすることの危険性について率直に語られている。
しかし、何故、東丈は、最初から高鳥に対して冷たい対応しかとらなかったのだろうか?
江田四郎の助けを借りに行き、後戻りできなくなる運命にある女優に対し、それでも、行かないよう最大限の助言をする一方、高鳥に対しては後に幻魔化するということも十分予知できていたはずなのに、それを捨てておいた。
あるいは、東丈は、高鳥の幻魔化もGENKENという組織の強化に必要だと考え、故意に捨てておいたのだろうか?
だとすると、東丈は、ある意味、相当な悪といってもよい懐の持ち主のようにも思える。
そのほうが、画一的な救世主の姿より、はるかに魅力的な存在になるのではないか。
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