2012年7月8日日曜日

持ち重りする薔薇の花/丸谷才一

元経団連会長で財界総理と称される梶井が、友人のジャーナリストである野原に、自分がパトロン的な立場で三十年来、付き合ってきたクヮルテット(弦楽四重奏団)の4人のメンバーのゴシップ的な秘話を語るという物語。

よく、漫才師でも、舞台以外では、相方とほとんど口を聞かない関係が実状と聞くが、 クヮルテットも、一流のものになると、大概メンバーの仲が悪いという。むしろ仲が悪くないと一流とはいえないというものらしい。

この物語の クヮルテット「ブルー・フジ・クヮルテット」のメンバーにも、さまざまな事件が起こる。

ヴィオラ奏者の別れた奥さんと寝てしまうチェロ奏者。そのチェロ奏者の妻と駆け落ちしてしまうヴィオラ奏者。失言が元でメンバーから追放される第一ヴァイオリン奏者。M&Aのコンサルティングをてがける妻から、突然離婚を突きつけられる第一ヴァイオリン奏者。

しかし、そんなどうしようもない俗な事件で険悪な仲になるにつれ、不思議に、彼らの音楽は成長し深みを増していく。

語り手の梶井も、一人息子を登山事故でなくし、それがきっかけで、妻がキッチン・ドランカーとなり、病気で死んでしまい、その後、経団連に勤めていた俊英な女性と知り合い、再婚するが、その後妻が六十前に認知症になってしまうという私生活の一方、ビジネスでは、どんどん出世し、社長、経団連会長、名誉顧問になっていく。

そんな話が、元経団連会長から、たんたんと語られるのだが、ゴシップネタを暴露した際の法的な問題、M&Aのコンサルタントフィーの話、アメリカの離婚事情、経団連会長候補者のゴシップネタを週刊誌が掲載するのをコネで握りつぶす当たりの話は、おそらく、丸谷氏が聞いた実際の話をベースに書いているのではないだろうか。
一方、セックスの描写などは、直接的なものはないものの、丸谷氏好みというか、老齢の男が好みそうな婉曲的な表現になっている。

ビジネスと芸術と男女のゴシップが複雑にミックスされた物語で、読後の印象としては、フルボディの渋みの利いた赤ワインを飲んだという感じです。

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