2020年7月19日日曜日

対訳 ランボー詩集 フランス詩人選(1)中地義和編

ランボーの詩は、一度まとまったものを読んでみたいと思っていたので、原文付きの文庫本は、パラっとページを開いてすぐに読みたくなった。

本書の構成も分かりやすく、前期韻文詩、後期韻文詩、地獄の一季節(全文)、イリュミナシオン、そして、ランボーが最後に残したという詩「夢」、作品解説、年譜と一通りまとまっている。

原文が読めなくても、言葉の持つイメージが伝わってくるので、それを見るだけでも雰囲気を感じ取ることができる。また、特異な表現には注釈がついているで、それを読むのも面白い。

この本を読んでいて興味深かったのは、「地獄の一季節」が、ダンテの「地獄篇」に近い場面設定がされていることが分かったのと、「イリュミナシオン」が「地獄の一季節」の後に書かれたものではなく、その前後(と言っても詩作の期間はたった5年しかない訳だが)の広い期間にランボーが書き残した様々な作品を拾い集めた詩集であるという説だ。

この説は、実質的な詩作の訣別を述べている「地獄の一季節」の後に「イリュミナシオン」が詩作されたという不自然な流れを解消してくれるものだ。

(ビートルズの実質的な最後のアルバムは「Abbey Road」だが、最後のアルバムが「Let It Be」だったのと同じような感じか)

また、こうして訳者が変わっても、好きな詩は好きだ(特に「夜明け」)ということを改めて再確認できたというのもうれしい点であった。

本書には、ランボーをめぐる色々なイラストが掲載されているが、まるでサルのような姿で描かれているイラストもあり、これも、ランボーがパリの芸術家たちに悪い印象を持たれていたせいなのだろうか。(いかにも生意気そうな若僧という雰囲気は伝わってくる)

その点も読んでいて面白かった。


2020年7月5日日曜日

香港国家安全維持法に思う

コロナ禍にある世界が自国の対応に追われる中、間隙を突くように異常なスピードで成立した「香港国家安全維持法」。

この法律は、異様な制定手続で施行された。
香港の人たちに適用される法律にも関わらず、香港の立法会(議会)を通さず、中国全人代常務委員会で6月30日に可決された。しかも同日午後11時をもって施行。
さらに驚くべきことに香港の人たちには、施行されるまでこの法律の全文は公開されなかった。

公開された法律の内容も慄然とするもので、香港の人たちが行ってきたデモ活動や中国共産党や香港政府への批判が、「国家分裂」「政権転覆」「テロ活動」「外国勢力との結託」のいずれかに該当すると判断されると、3年以上10年未満の懲役刑に処せられる。重大な犯罪と認定された場合は、終身刑または10年以上の刑を宣告される。

その判断をする機関は、香港政府が行政長官をトップとして設立する「国家安全維持委員会」であるが、この委員会には、中国政府が顧問を派遣するほか、治安維持機関として香港に新たに設置する「国家安全維持公署」という機関に監督・指導にあたらせる。
司法や警察は「国家安全維持委員会」の配下にある。

「国家安全維持公署」と香港国家安全維持法に従って職務を遂行するその職員は、香港特別行政区の管轄権の対象とはならないとある(第60条)。
つまり、香港の人々はこの機関およびその職員に何も手が出せないということだ。

この規定以外にも、「香港の他の法律と矛盾する場合、香港国家安全維持法が優先される」との規定も盛り込まれている(62条)。

香港特別行政区に居住していない外国人が起訴される可能性もある(第38条)。

他にも問題だと思われる条項が多数ある。

この法律は、香港の人たちの頭に、四六時中、拳銃を突き付けて、自分たちの思い通りに行動を強制している状況に等しい。

この21世紀に、こんな悪法によって人権が侵害される場面を目の当たりにするとは思いもよらなかった。

(参考文献)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60844530W0A620C2I00000/?n_cid=NMB0000

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53259691

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61142

https://transitjam.com/2020/06/30/national-security-law-english-translation/#_Toc44451742

2020年7月4日土曜日

ぜんぶ本の話/池澤夏樹 池澤春菜

まえがきで、池澤春菜が、読書は旅に似ていると書いているが、父と娘が幼年期から読んだ本の話を振り返ると、もはや親子が辿ってきた人生そのものに限りなく近づく行為と言ってもおかしくないかもしれない。

それは、語られている本が、まるで池澤家の書棚のイメージがくっきりと浮かんでしまうほど、鮮やかな好みが示されていること(ほとんど翻訳物)に加え、有名な作家を父に持ったお互いの若い頃の苦労がせきららに語られているせいもあると思う。

池澤春菜が、自分のいじめの経験を話して、
「本に触れることで救われる子、現実のつらさをやりすごせる子、壊れそうになる心をせき止めて、現実に立ち向かう力を持てる子。...だから、家にこもって本を読みふける子供を、親はできるだけ静かに見守ってほしいとわたしは思います」と述べているところや、
池澤夏樹が、自分の小説の主人公が職業を持った女性にするケースが多いのは、母や伯母が時代の制約で女性であるがゆえ活かすことができなかった能力、行動を、代わりにヒロインにさせているからだと思い至ったという告白は、特に胸に残った。

と、重い話を書いてしまったが、全体的には、池澤夏樹・春菜ワールド全開の、冒険小説、SF、ミステリー中心の本が、親子の軽妙な会話でおもしろ楽しく取り上げられていて、あっという間に読み終わった。

読後、あ、この本読んでみたい、と思うものが多かったので、これはいい書評の本だと思う。