一読して、怖い作品だなと思った。
語り手である私は、故郷恋しさに、かつて父が住んでいた「五年以上住む人がいない」といういわくありげな家を再訪する。
そこで、彼は家の現在の住人である医者と思われる「彼」とばったり出会い、知り合いになる。
彼は妻と二人でこの家に四年間住み続けている。
妻は美しいが、無口で「変人」らしい態度。
彼は私を一方的に信頼し、彼の妻に対する愛と性格の問題について話し出すが、しんとした家の中で「なぜかそれ以上聞くのは堪えられないように思われ」、家を去ろうとするが、彼から「いつか役立つこともあろうかと思いますから」、私の住所を書いてくれと頼まれる。
その一年後、彼から一通の手紙が届く。彼は手紙で、妻が精神分裂者であったことを告げ、「ちょっとした手落ち」で妻を死なせてしまったことを告白する。
ルミナール錠を「その日に限って机の上に出しっぱなし」にしてしまい、誤って過剰摂取してしまった妻。しかし、それを吐き出さそうとせず、薬が効き、死にゆく妻を待つ彼。
手紙を読んで「ただ、たまらなく不愉快だった」私は家に再度赴くが、「なぜか特別な気配に思わず立ち止まってしまう」。来た路を引き返そうとする私は、
「すぐ二十メートルも離れていない窪みの中に、目深に帽子を被り、膝に猟銃をかかえ、黒い外套の衿を立てて坐っている男」(彼)に気づき愕然とする…という物語だ。
彼が私を殺そうと待ち伏せしていたのか、あるいは別の人間を待っていたのかは語られていないが不気味な印象が残る作品だ。
なぜ、前半の一見やさしげな妻を愛しているように見えた彼が、後半暴力的な人間に一変したのか、あるいは、そもそもの本性が暴力的な人間だったのか。
後者と考えると、彼はなぜ私を殺したかったのか。
こういうざらっとした意味不明な暴力性を感じた作品は、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」以来。
0 件のコメント:
コメントを投稿