2018年12月10日月曜日

緑字/円城塔

「文字渦」からの一篇。

この作品も変わっている。
文字の話であることは同じなのだが、主人公の森林は、どうやら相当のファイルサイズを持ったテキストファイルを探索しているのだ。

「平文の記録ではなくデータベース化を検討するべき規模といえたが、まだ力押しできる程度とも言えた」とは言い得て妙である。

そのテキストファイルは、機械向けの命令文が大半だが、島々のように浮かぶヒト向けの文章が偏在している。

漢訳の金光明最勝王経
同じく漢訳の華厳経
千載和歌集の第七十二歌から第九十六歌
光る部首や微弱な光を放つ固有名詞

印刷する際の紙の素材や色、質までデータで指定されている。

さらに門構えの中に門と記された漢字(おそらく架空の漢字)は、40AU(Astronomical unitの意と思われる)の距離に12ポイントで印刷することが指定され、40AUとは冥王星のあたりを指すという、まるで宇宙のような世界として描かれている。

この無意味な、しかし妙に生命感が感じられる宇宙と似た世界がテキストファイルという身近にありながら、その実よく分からないものに存在しているという発想が素晴らしい。


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