2018年12月15日土曜日

海街diary 9 行ってくる/吉田秋生

読後感が強く残ったのは、番外編の「通り雨のあとに」のせいだろうか。

すずがかつて住んでいた山形の河鹿沢温泉に戻ってくる。
そのときには、すずはサッカーも辞めていて、甥の二人を連れている。
十三回忌という目的だけでなく墓じまいをして、実父母のお墓を鎌倉に移すという。
そして、もうすぐ結婚するという。(甥の一人の名前を見ると、相手が分かる)

その二つの話に少なからずショックを覚えたのは、かつて、すずと一緒に住んでいた腹違いの和樹だ。
彼は真面目に旅館あずまやに勤めているが、弟の智樹は傷害と窃盗を繰り返している。母親の行方は分からない。

和樹は、姉のすずが好きだったに違いない。
しかし、彼女は、父の死後、いい加減な義母とともに和樹ら弟たちを捨て去り、新しい生活を求めて、鎌倉に旅立った。

彼女が蝉時雨の中で香田家姉妹に囲まれながら感情を吐き出すように泣いた場面は、この物語でもっとも印象的な場面だ。

彼女は自分の心の枷を取り払ってくれた姉たちを信頼し、鎌倉に旅立つ。
香田家姉妹にならなければ、海街の物語は成立しなかった。

でも、この番外編では、和樹という残された者から見た蝉時雨の中を走るすずの後ろ姿が描かれている。

呼び止めようとした和樹の声を聴き、一瞬立ち止まったけれど、再び走り出す後ろ姿のすずが。

この物語の光と影のような対比を置いたことで、よけいに光は眩しく、そして残酷に思える。

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