2017年7月23日日曜日

鳥たちの河口 野呂邦暢 近現代作家集 III/日本文学全集28

社内の内紛に巻き込まれ、同僚に裏切られ、会社を辞めざるをえなかった男が、百日間、河口に通い、鳥を見続ける。

ツクシマガモ
カラフトアオシシギ
ハシブトアジサシ
ツメナガセキレイ
イワミセキレイ
カスピアン・ターン...

珍しい鳥をみつけては、鳥類図鑑で調べ、いつどこで見つけたかをノートに記録する。

男には病気の妻がいるが、男の心情は彼女には向かわない。
河口に通って鳥を見続けること以外、関心が持てない。

そんな男にあった変化といえば、河口に筏を浮かべようと苦労する少年と、男が撮った写真を本にしないかと誘いをかけてきた印刷会社の社長、そして、たびたび目にする鳥たちの変死と、傷ついたカスピアン・ターンを家に連れて帰り、保護したことだ。

不安定な環境にいる男の心情によって、鳥の見方も変化する。

男の属していた社会と対立する自然の癒しであったり、隊列を組んで飛ぶガンに対しては社会そのものを感じたり。

しかし、最後に、鳥たちの変死の原因だったと思われるハゲタカに男は襲われ、命の危機を感じたとき、はじめて鳥に対して恐怖を感じる。

この時、 男にとって、世話をして傷を癒したカスピアン・ターンは「不気味な異形の物」に変わってしまった。
まるで、これから社会に復帰しようとする男を待ち受ける未知の不安のようなものに。

静かな文章で綴られているが、その奥には硬質で非情な雰囲気が感じられて、個人的には好きな作品だ。

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