2017年7月1日土曜日

大鮃/藤原新也

オンラインゲーム中毒の青年 ジェームス・太古・マクレガーは、精神科医のカウンセラーを受け、亡き父の生まれ故郷スコットランドオークニー諸島を旅することになる。

そこで、太古青年は、旅行会社が選定した現地ガイドを務めるマーク・ホールデンという老人と出会う。

三日目までのマーク老人の、のんびりとしたガイドに退屈を覚えた青年であったが、四日目の風の強い嵐の日に奇跡が起きる。

マーク老人の友人で船大工のアラン老人、マーク老人とその父、父の弟ラドガの人生。

太古青年が求める父のイメージを強く感じさせる男たち。

そうして、少しずつ変わってゆく太古青年に、大鮃(おひょう)釣りで最後の奇跡は起きる。

この物語の素晴らしいところは、父の死をきっかけに崩れそうになったマークに父親代わりの優しさをラドガが与え、それを受け取ったマークが父の死により父性を失った太古に同じものを与えようとしたことだ。まるで、恩送りのように。
しかし死の扉の前に立つ老いの季節は絶望の季節ではありません。
落葉もまた花と同じように美しいものです。
別れの時にそんな箴言を残したマーク老人を懐かしく振り返る、今は成長した太古を冒頭に据えたことで物語に循環が生まれたように思える。
だから、読者もこの物語をまた読み直してみたくなるのかもしれない。




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