ただし、この作品を皮切りに、「幻魔大戦deep」と「幻魔大戦deepトルテック」という続編が書かれることになった。
この物語は、どこかエッセイ的な感じで、平井和正が自分の半生を振り返っているところから始まる。
紙の本には見切りをつけ、電子書籍にたくさんの作品を書き続けたこと。
その間、日本の出版業界は色褪せ、周囲の人々は老い、星新一も死んだが、自分は常に作品世界の中で若く生き続けていたこと、などなど。
平井和正は、まるで世捨て人のように、現実世界は無意味で小説世界こそ本物の人生であると述懐する。
そして、夢の話になる。
夢の中に、「地球樹の女神」のヒロイン 後藤由紀子が現れ、平井和正自身が、「地球樹の女神」の主人公である四騎忍であることを告げられる。
5歳の四騎忍に変身した平井和正は、後藤由紀子とともに、自身の故郷である横須賀の砲台山を訪れる。そこは、平井和正が十三歳の時に、「地球樹の女神」の原形である「消えたX」という作品の着想を得た場所だった。
そして、四騎忍は、「幻魔大戦」の東三千子と出会い、十五歳の四騎忍となり、木村市枝とも出会い、彼女たちから、失踪した東丈の捜索を依頼されることになる。
面白いのは、四騎忍には平井和正の意識が宿っており、彼の思いが所々に露出するところだ。
四騎忍が語る、東丈失踪後の“幻魔大戦”のその後のエピソードも興味深い。
「ハルマゲドンの少女」でも語られなかった、丈が渡米していた事実や、丈が創設した団体「GENKEN」が会員の減少により自然消滅した事実。
カルト宗教、偽メシア...
ここで語られる 四騎忍のGENKENに対する冷徹な視線は、“幻魔大戦”断筆後、20年近い時間が変えた平井和正の内省的な思いが反映されているような気がする。
そして、東丈の秘書だった杉村由紀とも出会う。
四騎忍は、東丈失踪後、彼女が高鳥に性的に誘惑され、ヤクザの矢頭に襲われるはずだった事件を未然に防ぎ、さらには、東丈のいう事を忠実に守ろうとし、無理をする杉村由紀の生き方自体まで否定する。
これも、時の経過がもたらした作者自身の率直な思いだったのかもしれない。
四騎忍は、アメリカに渡航しようとしていた杉村由紀を連れて、平井和正のもう一つの作品「ボヘミアン・ガラスストリート」の世界に移動してしまうのだった。
私は、「ボヘミアン・ガラスストリート」は読んだことがなかったが、この作品に出てくる「ホタル」という女性は、なかなか魅力的に描かれているなと感じた。
最後まで読み切っての感想。
四騎忍は結局、東丈を探し出す。
しかし、この物語の重要なところは、そこにあるのではなく、四騎忍に語らせた平井和正の東丈への思いが短く記載された以下のところにあるのだと個人的には思う。
東丈よりもその周辺の人間たちのほうが興味深い。だいたいおれは救世主など信じないし、東丈がその救世主ではありえないと思っている。もし、救世主なるものが存在するなら、人類を救済するよりは破滅へと導くのではないか。
大変興味深く読まさせて頂きました^^砲台山のラストの公園のジャングルジムの頂点に居る東丈に群がる人々・・しかしそこには何も無く崩壊する・・このラストで作者は幻魔大戦のすべてを表現してしまった。そんな感想を持ちました。自分には衝撃のラストでした。
返信削除確かに! 崩れ落ちた「老朽鉄骨」とは平井和正氏が自身を揶揄した表現だったのかもしれません。でも、それで吹っ切れて「幻魔大戦deep」と「幻魔大戦deepトルテック」という旧作とは全く違う続編が書かれたことを思うと、妙に感慨深いものがあります。
返信削除面白いコメントありがとうございました。
いえこちらこそ^^平井作品を語れる友達いないのでwツイッター「underdose」でフォローさせて貰いました^^よろしくお願いします^^
削除平井和正さんの作品は、今も影響力が大きいですね。自分だけでないというのが、tweetするとよくわかります。
返信削除フォローありがとうございました。(^▽^)/