「その日の午後、砲台山で」が予想外に面白かったせいもあるが、ついに、平井和正が電子書籍という媒体で続編を書いた「幻魔大戦Deep」に足を踏み入れてしまった。
電子書籍で小説を読むのは、あまり経験がない私だが、この「幻魔大戦Deep」という作品には、この媒体がぴったりと合っている気がした。
ひと言で言うと、この作品が明るくて軽い、つまりはライトノベルのタッチそのものだからだろう。
これは 「幻魔大戦」、「真幻魔大戦」を読んできた読者にとっては、信じられないような変化だ。
上記の過去作品に見られた、幻魔という魔族に攻撃され、滅亡の危機にさらされる恐怖、危機感、悲壮感のようなものが感じられないばかりか、お決まりの悪魔めいた陰惨な印象をもたらす悪役すら、ほとんど現れない。
超能力研究者兼作家の五十代の東丈と、翻訳者で六十を超えた東三千子。
何も起こらなかった世界で、ひっそりと暮らす初老の二人の姉弟に変化が現れるのは、彼らの姪 美叡の存在だ。
ニューヨークで失踪した弟の卓(これは真幻魔大戦と同じ)と、その妻である羊子(真幻魔では洋子)との間で生まれた娘が美叡(真幻魔では恵子)だ。
二人の名前が異なるということは、この世界がやはり別世界であることを暗示している。
美叡にはサイキック能力があり、若くして警視庁の巡査部長まで務めたが、あまりの有能ぶりに、危険を感じた上層部の意向により仕事を辞めざるを得なくなる。
そんな美叡には、夜中の3時に決まって、彼女を意のままに従わせようとする霊体が現れるという悩みがある。その悩みを解決するために、丈は知り合いの猿坊という霊能力者に会いに、美叡と一緒に京都に行くことになる。
そこから、様々な変化が東丈と東三千子に訪れる...というのが、大体のストーリーだろうか。
これも意外な印象だが、この物語に出てくる 東丈と東三千子は、肩の力が抜けて、実に伸び伸びとしている。彼らは、無視できない危機に遭遇しながらも、人生を楽しむ余裕がある。
二人ともお酒を飲むし、三千子はハリウッドの超天才スターからプロポーズを受け、彼の不思議な能力により三十代に若返り、女性としてのお洒落を楽しむし、丈も女性からプロポーズされ、彼女とのセックスも楽しむ。
平井和正は、明らかな意図をもって、幻魔大戦をリライト(rewrite)したとしか、いいようがない。
あの幻魔で袋小路に迷い込み、救いようがないくらい硬直した先のない世界を影に隠し(すべて放り投げてはいない)、新しい世界を構築しようとしたのだ。
その試みが成功したのかどうかは分からないが、特に苦も無く、1,2巻を読んでしまったのは事実だ。
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