池澤夏樹個人編集のこの近現代作家集は、個性ぞろいの短編が揃っているが、この「誘惑者」もすごい。
物語は、二人の行商の女が休んでいる始発待ちの駅の待合室に、時季外れの開襟シャツを着た大男が現れるところからはじまる。
疲れた男は眠るためにベンチを空けてくれるよう、お願いするが、女二人は動じない。 その女たちとの駆け引きの後、大男はようやく座れるが、そこに、事務員風の小男が現れる。
小男は、 大男と女二人に対して、自分が現れるのを先回りして待ち伏せしていた大男に捕まってしまったという話をする。吃音の大男に比べて、小男は流ちょうに話を進める。しかも、小男は昔、女を殺した過去があることをにおわせる。
そして、小男は、 自分が逃げ出さないよう、女二人に見張りを頼んで、自分は寝たらどうかと大男にもちかけ、大男は本当に寝てしまい、小男も合わせるように寝てしまう。
始発電車が来て、小男と大男の二人は乗り込み、さらに、バスに乗り換える。そして、ひっそりとした郊外の停留所で二人は降りて歩き、 ある門にたどり着いたところで、二人の関係が明るみになる...という物語だ。
短編小説の見本のような切れ味のあるどんでん返し。
そして、その結末を踏まえて、あらためて物語を見ると、最初からそう読み取ることもできたのだということに読者は気づかされるのだ。
小男の最後の台詞が、意味深だ。
来たるべき超管理社会を予言していたかのようにも思える。
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