5巻では、東丈の秘書 青鹿晶子の歓迎会を行うこととなり、訪れたシティ・ホテルのカクテル・ラウンジで、前の世界で東三千子にプロポーズしたサンシャイン・ボーイと出会うこととなる。
そこで、 東丈と連れの女性たちは、サンシャイン・ボーイのマジックにより、満月の幻想を見ることになるのだが、東丈だけ、何故か、髑髏のような満月の姿を見ることになる。
そして、その幻影と重なるように、井沢郁江の姿も。
しかし、この髑髏のような月のイメージが出てくる作品と言えば、漫画版の幻魔大戦ではないだろうか。そして、そこに出てくる女性のイメージと言えば、まず、ルナ王女のはずなのだが。
東丈は、この幻影の意味をサンシャイン・ボーイに尋ね、その会話のやりとりの中で、サンシャイン・ボーイから、幻魔大王というキーワードが出てくる。しかし、丈にはその言葉が思い出せない。
ただ、丈の記憶がわずかに呼び起こされ、十七歳と三十歳の頃、それぞれ別の世界で何かがあった事、しかし、その時の記憶が失われていることを自覚する。
一方、東丈事務所には、東丈の子分となった婦人警官が訪れており、容疑者リストを見せ、丈の振り子の力で白黒を判断するという仕事を行っていることが分かる。
それを、雛崎みちる(みゆきの娘)が見て、振り子の機能をソフトウェアに組み込めば、迅速に、テロリストやテロリスト予備群まであぶりだすことができるかもしれないというアイデアを出す。
このソフトウェアの話は、まるで、最近成立した“共謀罪”のような話ではないか。
2005年の12年後の未来を予知していたかのように、奇妙にその目的は似ている。
しかも、(無印)幻魔では救世主のはずだった東丈が、このアイデアを実現することになるとは、今読むと実に意味ありげな気がしてしまう。
また、この物語では、(無印)幻魔で東丈と敵対した江田四郎が現れ、井沢郁江に対して行ったのと同様、暗黒ボールを青鹿晶子の体に送りつける。
そして、 (無印)幻魔で東丈が見せた超能力の一つ 生体エネルギーの注入を青鹿晶子に行い、暗黒ボールを消し去る。
一方で、別の世界にいた羊子と出会い、姪の美叡が三年前に殉職していたことを知り、丈はショックを受け、雛崎みゆきとともに彼女の墓参りを行うことになる。
ここで興味深いのは、 彼女の墓石を見ながら、東丈が自分がいかに冷たい男だったかを自己分析するところで、姉の東三千子に対してすら、
「自分の意のままになる便利な家政婦として、おれは接していたのではなかったろうか 」
と述懐しているところだ。
作者としては、 (無印)幻魔で全く揺らぐところがなかったように見えた姉弟の絆まで容赦なく見つめ直している真摯さをアピールしたかったのかもしれない。
しかし、彼がそう述懐している、すぐ傍にいる雛崎みゆきも「便利な家政婦」の一人ではないのか。
その可能性まで考えが及んでいれば、こんな言葉は軽々しくは出てこないのではないだろうか。
(無印)幻魔の東丈であれば、そのような考えが頭を過っても、深沈として口を閉ざしていたに違いない。
この幻魔大戦Deepの東丈は、精神年齢が54歳にもかかわらず、べらんめえ口調もそうだが、軽い上っ面な人格が見え隠れしていて、変に興味深い。