2015年10月12日月曜日

途上/谷崎潤一郎

会社員の男が帰宅の道すがら、探偵の質問を受け、そこから、徐々に男が妻を殺すための数々の犯罪が明るみになる。
男がとった殺人方法は、直接的に妻を殺すことでなく、妻を病気になりやすい、あるいは事故に遭いやすい環境に置くこと。そうして、妻の上にいくつもの危険の可能性を積み重ね、偶然的危険を必然的危険に近づけていくことだった。

探偵と男の会話のやりとりの中で、可能性(possibility)の犯罪を巡るロジックの応酬があり、物語には理路整然とした緊張感がもたらされる。

1920年(大正9年)に書かれた推理小説とは思われないほど、完成度が高い。

それと、大正時代の生活のレベル 例えば、乗り合い自動車(バス)で、しばしば衝突事故が起きていたこと、東京 大森の飲み水が悪く、チフスにかかりやすい環境であったことも、興味深い。

探偵と犯人を東京の街を歩かせながら、物語を進めているところも動きが感じられていい。

金杉橋から新橋、銀座通りを抜けて、京橋、日本橋、そして水天宮まで約5㎞の真っ直ぐな道のり。

東京の要所を用いた歩いて1時間程度という現実的なルートの舞台装置も、いかにも谷崎らしい。

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