2014年8月2日土曜日

ディフェンス/ウラジーミル・ナボコフ

ナボコフが書いたチェスの小説。

さぞかし、巧緻に入り組んだチェスの戦いが描かれているのだろうと思いきや、読み終わってみると、むしろ主人公がチェスから遠ざかっている(遠ざかろうとしている)展開の方が長かった。

主人公のルージンは、ロシアの作家の息子でありながら、学校では、うだつの上がらない生徒だった。それがある日、叔母にチェスを教えてもらったのをきっかけに、その才能を開花させる。

やがて、彼は、チェスのマエストロとして有名になったが、実生活では、やはり無能力かつ肥満気味のうだつの上がらない男になっていた。

そんな彼を奇跡的に好きになった女の子と恋仲になるのだが、トゥラーティとのチェスの優勝決定戦で、神経衰弱となり、その試合を放棄してしまうだけでなく、以降、チェスの活動ができなくなってしまう。

物語中、もっとも読みごたえがあるのは、音楽に例えられたこの優勝決定戦におけるチェスの駒の動きとルージンの意識の動きである。
最初のうちはまるでミュートをはめたヴァイオリンのようにそっと、そっと進行した。両者は用心しながら布陣を敷き、あれこれの駒を丁寧に進め、狙いがあるようなそぶりはまったく見せなかった。
そして、なんの前触れもなく、弦がやさしく鳴り響いた。それは対角線を制しているトゥラーティの駒だった。しかしただちにかすかな旋律がルージン側にもそっと現れた。 
トゥラーティは退却し、引きこもった。そしてまたしばらくのあいだ両者は、まるで前進する気がまったくないかのように、自陣の手入れに専念した――手を入れ、組み替え、整える。 
そのときまた突然に火花が散り、すばやい音の組み合わせが轟いた。二つの小隊が衝突し、どちらもすぐに一掃されたのだ。
 こんなふうに、戦いの序章から、徐々に激しい駒の動きが展開していくさまがイメージとして思い浮かぶ文章が素晴らしい。

訳者の若島正は、「ロリータ」の翻訳者でもあるが、チェスプロブレム(詰将棋のようなもの)の国際マスターの称号を得ているので、この本の翻訳者としては最適な人物かもしれない。

全くの個人的な感覚であるが、この小説を読んでいると、どうも、キューブリックの映画に出てくる役者や映像のイメージがチラチラと思い浮かんでしまう。

実際にキューブリックが「ロリータ」を映画化したということもあるが、彼がチェス好きとしても有名だったということも意識にあって、そう思うのかもしれない。

☆おまけ
http://chess.plala.jp/chess_beta.html

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