なぜなら、主人公の船会社の社長 フロレンティーノ・アリーサと、その初恋の人である有名な医者の未亡人 フェルミーナ・ダーサは、七十歳を過ぎた、死に近い老人なのだから。
物語のはじまりも変わっている。
主人公ではなく、フェルミーナ・ダーサの夫 フベナル・ウルビーノ博士の一日から始まり、彼が事故で死に、フロレンティーノ・アリーサが、夫を亡くしたフェルミーナ・ダーサに愛を誓うところまでを最初に描く。
それは、フロレンティーノ・アリーサが、未亡人 フェルミーナ・ダーサに愛を告白するまで待った、五十一年九ヵ月と四日目だった。
そして、物語は、フロレンティーノ・アリーサとフェルミーナ・ダーサの出会いの時に遡る。
お金はあるが、マフィアのように怪しいビジネスに手を染めている父親を持つ美しい少女フェルミーナ・ダーサと、船会社事業を創設した男の内縁の子として母親に育てられたフロレンティーノ・アリーサ。
二人の出会いと別れ。
そして、フェルミーナ・ダーサの結婚。
数多くの女性と関係しながらも、フロレンティーノ・アリーサは、フェルミーナ・ダーサを想う心だけは失わずにいた。
そして、決して不幸ではない二人の別々の人生をたどりながら、無情にも年月は過ぎてゆき、物語は最初の場面へと戻ってゆく。
この物語の面白さは、何といっても、主人公がラブレターでもって、相手に愛情を伝えるシーンが多いことだろう。
恋愛への情熱を燃やすフロレンティーノ・アリーサは、フェルミーナ・ダーサには出せない手紙の思いを持て余し、街の代書屋として、数々のカップルのラブレターを無料で代書するサービスをはじめる。
ある日、内気な感じの女の子が、受け取ったばかりの、答えを返さずにはいられないラブレターに返事を書いてもらえないかと、フロレンティーノ・アリーサに震えながら頼みにくる。
フロレンティーノ・アリーサは、その手紙が自分が前日の午後に書いたものだということに気づく。
彼は、女の子が受けた感動と年齢にふさわしい文体を使い、自分が書いた手紙に対する返事を書いてあげる。
そして、彼は、自分自身を相手に熱に浮かされた手紙をやり取りする羽目になり、やがて、そのカップルは結婚する。
夫婦は、ひとり目の子供が生まれたとき、偶然、自分たちのために手紙を書いてくれた代書屋が同じ人物であることが分かる。
彼らは、揃って、フロレンティーノ・アリーサを訪ね、名付け親になってくれないかと頼む。
彼らは、揃って、フロレンティーノ・アリーサを訪ね、名付け親になってくれないかと頼む。
(いい話ですね)
やがて、フロレンティーノ・アリーサは、数々のラブレターのテンプレートを一冊の本にまとめる。しかし、出版のお金がなかった。
やがて、彼に経済的な余力が出来たとき、悲しいことにその頃にはラブレターを書く人間はいなくなっていた。(これも皮肉が利いている)
やがて、彼に経済的な余力が出来たとき、悲しいことにその頃にはラブレターを書く人間はいなくなっていた。(これも皮肉が利いている)
フロレンティーノ・アリーサの五十ぶりの愛の告白を受け、戸惑うフェルミーナ・ダーサだが、その二人の時間の溝を埋める役割を果たしたのも、彼の書いた手紙だった。
そういった目にしたくないものまで含めて、人を愛せるだろうかと疑ってしまうくらい。
フロレンティーノ・アリーサの最後の言葉が素敵だ。
こんなにカッコいいエンディングを誰が想像しただろう。
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