2014年6月2日月曜日

失われた時の海/ガルシア・マルケス

ガルシア・マルケスの短編の中でも、一際、幻想的な小説だ。

ある日、夜の海からバラの芳香が漂ってくる。
海では人が死ぬと、遺体を海に流すが、ときどき花束を海に浮かべていた。

バラの匂いを嗅いで、老人の妻は土の下に埋めてもらいたいため、生きたまま埋葬してほしいと夫に頼む。

しかし、老人の妻は亡くなり、花も供えられず、海に流される。

やがて、海からふたたびバラの香りが漂い、村にはたくさんの人がやって来た。
その中に、大金持ちのハーバード氏がいた。
彼は、お金を無心する人々に約束をさせ、それが実現できれば、希望するお金をあげ、そのうち、音楽や花火、軽業師を呼び寄せ、お祭りを主催した。

祭りは一週間続き、終わったとき、ハーバート氏は長い眠りに就く。

やがて、長い眠りからさめたハーバート氏は海の底に食べ物を探しに行く。

この海の底の風景が美しい。

ぼんやりと光る水没した村の前では、音楽堂の周りをメリーゴーランドに乗った男女が回っており、テラスには色鮮やかな花が咲き乱れている。

死者たちの海が始まると、大勢の死体が幾重にも層をなしていている。
最近亡くなった人たちの水域には、五十歳も若返った美しい老人の妻があった。

そして、海の底には、何千という海亀が石のように海底に貼り付いており、そのうちの一匹をひっくり返すと、眠った海亀はふわふわと上に昇っていく。

海から上がり、海亀をたらふく食べたハーバート氏は、こんなことを話す。

「われわれは現実をしっかり見据えなければならない。現実とはつまり、あの香りは二度と戻ってこないということなのだ」と。

涼しい夜風に吹かれ、遠くから聞こえる街の喧騒を潮騒のように感じ、物語を反芻すると、心が深く深く沈んでいくのが分かる。

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