2014年1月12日日曜日

木野/村上春樹

なんとも、そっけない題名である。この短編小説の主人公の名前「木野(きの)」そのまま。

ビートルズの題名で連作するのかと思っていたら違うようで、期待が外れた。
むしろ、副題にあった「女のいない男たち」というテーマで連作しているということなのだろう。

もっとも、私が今回の短編小説を読んだ後の印象としては「女のいない男たち」というより、「女を寝取られた男たちのその後」というほうが、しっくりくる。

一作目の「ドライブ・マイ・カー」の初老の俳優は、死んだ妻と浮気していた男と友人関係を結び、その男の魅力を探ろうとするし、二作目の「イエスタディ」の関西弁の浪人生は、恋人が他の男と寝たことに気づき、遠い街で暮らすことになる。

今回の短編小説「木野」では、スポーツ用品を販売している会社に勤めていた木野が、妻が彼と仲のよい同僚とセックスしている現場に遭遇してしまい、そのことを理由に、会社を辞め、叔母が青山で経営していた喫茶店を借り受け、小さなバー「木野」をはじめるという物語だ。

バーでかかる古いジャズ、ウイスキーの説明などは、作者の実体験に基づきリアリティがあり、そのバーの居心地のよい雰囲気が伝わってくる。

木野は、そのバーのお客として、神田(カミタ)という不思議な男に会うことになるのだが、一人の女性客の来店をきっかけに状況が悪い方向に変わりはじめる。

猫の失踪と蛇の伝説、長い旅行、文書のない絵葉書、孤独、真夜中のノック、雨の夜。
そういった要素が木野を少しずつ追い詰め、彼は自分自身に向き合わざるを得なくなる。

これまでの二作とは異なり、この短編にはちょっと重たい要素が含まれている(特に最後の方の部分)。いずれ何かの長編小説に変貌するプロトタイプ的なものなのかもしれない。

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