2013年3月3日日曜日

真幻魔大戦1~2/平井和正

「真幻魔大戦」とは、いわゆる角川文庫版の「無印 幻魔大戦」と時期的に並行して書かれた、「無印」とは別世界での幻魔大戦の物語である。
当時は、徳間文庫版全18巻で読むことができた。

「無印」の世界では、1967年に戦いは始まるが1968年に幻魔にあっけなく破れ、地球は壊滅することになるが、「真」では幻魔の侵攻がまだ始まっていない12年後の1979年から物語が始まる。

登場人物も、主要人物である、東丈、三千子、ルナ姫、ソニー、ベガが登場するが、丈は29歳(無印では17歳)、ルナ姫はアルコール中毒で三年前に他界(その代わり、妹のリア姫が登場し、彼女の体に霊体として時に現れる)、ソニーも16歳ぐらいの少年になっているが多少、超能力に陰りがみられ、ベガは幻魔により、別の時空に飛ばされてしまっている。

丈の秘書であった杉村由紀もすでに他界しているが、彼女の娘である優里に、杉村由紀の意識が宿って登場する。

何故、このような別世界が存在しているのかというと、時間跳躍者である”お時”(この物語では、”ムーンライト”と名乗っている。彼女は「新幻魔大戦」というもうひとつの物語で描かれた別世界から来た)が、幻魔に打ち勝つべく、過去にタイムスリップして、人類に超能力者の血統を宿し、育てることで、幻魔との戦いに負け壊滅した地球の運命を変えようとしたことによる。

                  やり直し
「新」幻魔大戦(1999年滅亡)→→→→ 「無印」(1968年滅亡。失敗)
                 ↓       ↓
                  →→→→  「真」(12年後の世界)


真幻魔大戦1「ビッグ・プロローグ」では、ルナ姫の妹である第三王女リア姫が、アメリカへと向かうジェット機のなかで、ムーンライトに出会い、ルナ姫が降霊し、彼女が経験したフロイとの遭遇、幻魔大戦への召集を追体験するところから始まる。

リア姫が訪米する目的は、彼女のテレパシストとしての超能力を、多国籍企業クェーサーのカトー社長に買われたことによる。「無印」の冒頭でルナ姫を支援するメイン社長の会社を乗っ取ろうとしたカトーが、あと一歩のところでその陰謀を見破られ、敗退してしまったが、この世界では、超多国籍企業の帝王としてすでに君臨し、その取り巻きである醜悪な超能力者ドクター・レオナード・タイガーマンが力を振るっている。

このタイガーマンは、非常に輪郭がくっきりと描かれていて、ある意味、魅力的な悪役である。

第2巻「ESPファミリー」では、そのドクター・タイガーマンに催眠をかけられ危機に陥ったリア姫を、ムーンライトの力を借りた気弱なテレパシスト  ジョージ・ドナーの働きで、彼女の深層心理にいるルナ姫を呼び出し、危機を脱す。
一方、日本にいるムーンライトは、作家で超能力研究者である東丈と出会い、彼にクェーサーの超能力戦略を証拠づける極秘文書を手渡す。

当時、「真」は、「無印」と同じ世界で、アメリカでのルナ姫たちの活動を描いた作品ではないだろうかと勝手に期待して読み、ひどく気落ちしたのを覚えている。

パラレル・ワールドというのも、SFではおなじみの概念だが、この考えでいくと、人類は幻魔に負けても、何度でもやり直しができてしまうような気がして、「無印」で感じる緊張感や絶望感が「真」の物語では弱くなっているのは否めない。

作者は、1979年から1984年にかけて、ほぼ同時期に「無印」と「真」を書き続けた。「無印」がどんどん、精神的な内面に傾斜し、物語がゆっくりとしたペースで進んでいくのと正反対に、「真」では、宗教的な部分にはあまり触れず、どんどん物語がダイナミックに動いていく。

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