2013年3月5日火曜日

パン屋を襲う/村上春樹を、チラ見して

カット・メンシックの表紙に惹かれて、ついつい手にはとってしまったが、中身にはあまり気がひかれなかった。

もともとの小説「パン屋襲撃」も「パン屋再襲撃」も好きな作品だが、個人的に、こういう昔の作品を、ちょっと手直しして再販するやり方があまり好きでないのだ。

二つの作品をくっつけて一冊の本にしてしまうのも、何かいただけない。
私などは、「パン屋再襲撃」を読んだあと、村上春樹の全集を読んでいて、「パン屋襲撃」を発見し、本当にあったんだと妙に感動したときの気持ちが忘れられない。

「パン屋襲撃」は、どことなく、気ままに書いて打ち捨てられた雰囲気を持つ作品のような気がして、全集にようやく顔を出すぐらいが俳味が利いていいなと個人的に思っていた。

それが、こう二つをくっつけてしまうと、何か直截すぎる感じがする。

そして、よせばいいのにページをめくってしまい、<ソニー・ベータ・ハイファイ>の文字が、<ソニー・ブルーレイ・レコーダー>に書き換えられているのを見て、さらにげんなりした。

私のイメージからいって、あの時、「僕」が見上げた空は、絶対に80年代の空でなければならない気がするのだ。

まだ、世界が重苦しい空気に覆われていない80年代の東京の夜明けの空、当時のハイテク製品のイメージとして、画質が売りだった<ソニー・ベータ・ハイファイ>はとてもぴったりくるのだ。
いまや、ブルーレイなど、どこのメーカーだって作っている。

作者は、最近の読者を想定して、ベータビデオなんて分からないだろうと、わざわざ親切にもブルーレイに代えたのかもしれないが、注釈でもつければいいのではないかと思ったりした。

これは、90年代にこの作品を読んで、’80年代の軽い空気感に魅せられた者の一人としての意見だ。
もちろん、チラ見程度なので、ちゃんと腰を据えて読めば、それなりに新しい良さも感じられるのかもしれない。でも、自分はたぶん駄目だろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿