ちょうど、村上春樹が小澤征爾にインタビューした内容をまとめた本書を読んでいた途中だったから、なおさら残念に思った。
大体において、インタビュー的な本は、速読(というか、ざっくり読み飛ば
してしまうこと)が多いのだが、この本は、なかなか、ページを読み飛ばすことができなかった。
それほど、内容が充実していて、クラシック音楽をほとんど知らない私が読んでも、小澤征爾の音楽に対する情熱、表舞台には見えてこない数々の努力、ボストン、ニューヨーク、ベルリン、サイトウ・キネンといった世界的に有名なオーケストラの各々の特徴、同じく、世界的な名指揮者バーンスタイン、カラヤンらの逸話、マーラーに関する考察(ユダヤ人としての特質)などなど、盛りだくさんに面白い内容だった。
(370頁程度のボリュームだったが、読むのに何日か時間がかかってしまった。)
ここまで、小澤征爾の音楽に深く迫ることができたのは、村上春樹のクラシック好きが功を奏しているのは間違いないところだが、同時に「作者兼批評家」としての手腕が存分に活かされているからだと思う。
(単なる批評家だけでは、創造者としての共感が得られなかったと思う。)
(単なる批評家だけでは、創造者としての共感が得られなかったと思う。)
村上春樹は「若い読者のための短編小説案内」という本も出しているのだが、この本を読むと、村上春樹のもう一つの顔として、実に優れた批評家の一面を持ち合わせていることがよく分かる。
彼の批評の特徴は、いわゆる文芸批評にありがちな総論に終始せず、対象となる小説本を、まるで、1枚1枚のテキストに分解し、一つ一つの文章や言葉に赤ペンで印をつけるように、細かく吟味していくところだ。
この本でも、その手法を感じさせるかのように、村上春樹は、二人でレコードを聴きながら、スコアを読むことの重要性や、曲のテンポ、アクセントの付け方、一つ一つの楽器が奏でる音への思い入れ、「間」のとりかた等、小澤征爾から事細かな部分まで聞きだしている。
文中、レコードマニアは正直好きではないと、小澤征爾が吐露しているように、このように具体的に音楽に踏み込んだインタビューが出来なかったら、ここまで充実した内容を、マエストロから聞き出すことは出来なかっただろう。
そういう意味で、小澤征爾が体調を崩し、村上春樹をして、まとまった話を聞きだすことが出来たのは、まさに天の配剤だった。
その矢先の、1年間の活動中止宣言。
とても、残念だが、小澤征爾指揮のマーラーは、是非聞いてみたいと思っている。
インタビュアーによっても魅力ある人の魅力が出るか出ないかが変わりますよね。この本チェックしたいと思います。音楽に長けている人は、想像力が豊。やっぱり人の心を掴むのが上手なのでなんでしょうね。羨ましいなぁ。
返信削除minamさん。
削除コメントありがとうございます。
確かに、村上春樹はインタビューの仕方がとても上手だと思います。
聞きたいポイントが、はっきりして、話が脱線しそうになっても、必ずそのポイントに話を戻す言葉を何回か言っています。
それと、小澤さんが言った言葉を、概念的に整理できてしまう部分なんかは、さすがだと思います。
でも、今回のインタビューの成功に一番重要だった点は、音楽に対する愛情が村上春樹に多分にあることが、きちんと、小澤さんに伝わったことだと思います。