落ち込んでいるときは、何をしても上手くいかないような気がする。
そういう時は、つまらないことにでも願をかけたくなるものだ。
駅まで歩く道、渡らなければならない信号機が2つあるのだが、タイミングが悪いと、横断歩道の手前ぎりぎりのところで、青信号は点滅し、渡るのをあきらめる。渡り切る道路の距離が長いのだ。
そして、3分近く待つことになる。
今日は…と思っていると、すでにはるか前方で信号は青に変わった。このままのスピードで歩いていると、間違いなく赤になってしまう。
青で渡ったら…と、願をかけ、走る。
リュックが揺れ、マフラーが首から外れかけ、冷たい空気が喉もとに入ってくる。
横断歩道の真ん中で青信号は点滅し、渡り切ったところで赤に変わった。
荒くなった息が頭にこだまする中、ふと、タルコフスキーの映画「ノスタルジア」の最後のシーンが頭を過ぎった。
心臓の病を患っているロシア人作家アンドレイが訪ねたイタリア トスカーナ地方の村で、村人から狂人と噂される老人ドメニコと出会う。
ドメニコは、アンドレイに、自分が果たせなかった願いを託す。
それは、村の広場の温泉を、ロウソクの火を消すことなく渡り切ることができたら、世界はまだ救われるというものだった。
アンドレイは、ドメニコとの約束を果たそうと、ロウソクの火を手のひらで風から守りながら、温泉を渡りきろうと試みる。
世界は救われたのだろうか。
まだだとしたら、後、何回、温泉を、横断歩道を、渡りきればよいのか…
そんな、つまらないことを一瞬だけ、考えました。
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