余計な心理描写のない感傷を排した小説は何かと問われたら、ハードボイルド小説と答えてしまいそうだが、倉橋由美子が書いた大人のための童話に比較したら、まだ甘ったるいカクテルのようなものかもしれない。
「大人のための残酷物語」は、アンデルセン童話、グリム童話、日本昔話など、有名な童話や昔話から題材を得て、作者曰く、「論理的で残酷な超現実の世界を必要にして十分な骨と筋肉だけの文章で書いてみよう」という試みから生まれたものです。
因果応報、勧善懲悪、自業自得の原理が支配する世界。
読んでいて残酷な話が多いが、なまじ中途半端な同情心やヒューマニズムより、残酷な真実を示されたほうが、精神衛生的には良いのかもしれません。
また、全体に共通しているのは、「大人のための」というだけあってエロチックな描写が多いことと、物語の最後に短い教訓がつけられていることだ。
思わず笑ってしまいそうな結末も、「教訓」を読むと素直に笑えない、かなり毒性が強い物語もある。そういう意味でも、「大人のための」といってもいいかもしれない。
作品の中には、谷崎潤一郎の「春琴抄」、中島敦の「名人伝」、カフカの「変身」も題材として取り上げられており、強烈なアレンジがほどこさているので、興味のある方は、原作と読み比べてみるのも面白いかもしれません。
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