村上春樹氏が、自身が収集した様々なクラシックレコードの解説をしている。クラシック(古典音楽)をそれほど聞いていない私のような人間でも十分楽しめる内容になっている。
第一に、ほとんどが1950年から1980年までの一昔前と言ってもいいレコード群なのだが、様々なレコードジャケットの写真を見ているだけで楽しい。クラシックレコードのジャケットというと、画一的なオーケストラの写真をイメージしがちだが、個性的なイラストや指揮者、オペラ歌手の顔写真が多く掲載されていて味がある。
特に小澤征爾の三十代頃の顔写真のレコードジャケットは如何にも才能に溢れた青年の風貌を湛えていて興味深い。
第二に、村上春樹氏のそれらレコードの入手のしかたがユニークだ。中古レコード屋で1ドル、最も安い価格では50円!で入手したという話を聞くと、そう言った場所に行かない私でも、心が揺れ動く部分がある。もちろん、そんな簡単なことではないと思うが。
第三に、村上春樹氏のレコードの解説が、平明な言葉づかいで分かりやすい。解説の仕方も、同じ曲を異なる指揮者と演奏家のレコードを複数並べ、それぞれの演奏を比較した批評になっている点も分かりやすい。
この本に、作曲家や曲、指揮者や演奏家の経歴の解説も注釈として付いていたらという感想も正直ないではないが、そこまで真面目に作ると、このCDサイズのカジュアルな本のイメージが壊れてしまうかもしれない。
それにしても、小説家の余技(ジャズレコードコレクター)の余技とは思えないほど、クラシック音楽に対する村上春樹氏の造詣は深いように感じる。(その点は小澤征爾も対談本で認めている)
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