木肌姫子という女子高校生。彼女は暇さえあれば本を読んでいて、月々の小遣い5000円では足りないぐらいの本(恋愛小説)を読んでいる。
最初のうち、漫画を読んでいたが読む時間のスピードが上がってしまい、たくさん買わなければ一日が持たなくなってしまい、読むのに時間がかかる本を購入するようになった。
その姫子は、ある日、恋愛小説の棚から変わった本を見つけるのだが、その説明が面白い。
観光地で売っている饅頭の包装紙のような装丁の本だった。手にして題名を見ると、漢字四字のうち一字しか知っている字がなかったので、中国語の本かと思ったが、中を見ると日本語だった。書き出しの文章が変わっている。「わたくしは殆ど活動写真を見に行ったことがない。」活動写真とは何のことだろう。先を立ち読みすると、巡査との謎の会話が延々と続く。...題名の漢字は、「ボクトーキタン」と読むのだろうか。なんのことだか分からないけれども、ホンキートンクのようで、なかなか洒落た題名だと姫子は思った。
姫子は「ボクトーキタン」に影響されて、図書館で出会った男子生徒と仲良くなり、駆け落ちまでしようとし、果ては援助交際まで...という物語だ。
姫子をホテルに連れ込んだ中年男が喋るコンピュータ用語の意味がなんとなく卑猥な感じで伝わってくる。それを姫子が「ボクトーキタン」の一節「相手が「おらが国」と言ったら、こちらも「わたくし」の代りに「おら」を使う。」の知識でなんとかやり過ごすのだが、こんな一節が濹東綺譚にあることは全く覚えていなかった。
原文で確認したら、その一節の前に荷風はこんなことを書いていた。
わたくしは現代の人と応接する時には、あたかも外国に行って外国語を操るように、相手と同じ言葉を遣う事にしているからである。
これは、海外経験のある荷風が考えたユーモアのあるコミュニケーション術だなと感じた。おそらく、多和田葉子もその意外な新鮮さを感じたに違いない。
0 件のコメント:
コメントを投稿