この作品は、池澤夏樹編集の日本文学全集で一部「祖母の退化論」の章だけ読んでいたが、その後の2つの章「死の接吻」と「北極を想う日」を読み終わると、ホッキョクグマの三世代の物語としてスケールの大きさを感じた。
一人目の私(牝熊)は、サーカスで活躍していたが、自らのサーカスでの生い立ちを自伝として書いたことで、ソ連にいずらくなり、西ドイツ、さらにカナダに亡命する。そこで結婚し、2人の子供を産むが、男の子は死に、女の子にはトスカと名付ける。
トスカは、東ドイツのサーカスでウルズラという女性のサーカス団員と運命的な出会いをする。相思相愛。精神の奥深いところでつながり、お互いの記憶やサーカスでの出し物<死の接吻>の練習を同じ夢を見ながら共有・体験する。その愛は、トスカが動物園に売却され、そこで息子クヌートを産んでも変わらなかった。
クヌートは、トスカには育てられず、マテイアスという男性の飼育員に育てられ、可愛らしい子熊として統合後のベルリンの動物園で人気者になるが、次第に成長し、マテイアスを爪で傷つけてしまったあたりから人気も凋落するが、天性の才気と幽霊のミヒャエルとの出会いで孤独を乗り切っていく。北極を思わせる寒い冬を待ちわびながら。
ホッキョクグマという設定ではあるが、物語が1989年のベルリンの壁崩壊の前後ということもあり様々なテーマが浮かんでくる。移民、移民の子、多様性、同性愛、地球温暖化などなど。
作者がベルリンの動物園で子熊のクヌートを見て、そこから、ここまで奥行きのある物語を想像力だけで作り上げたことに本当に驚いてしまう。
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