2018年8月26日日曜日

文学部唯野教授のサブ・テキスト/筒井康隆

小説「文学部唯野教授」のおまけみたいな本で、唯野教授への100の質問とか、インタビューが収録されているだけと切り捨てようと思ったが、この本に収められている『ポスト構造主義による「一杯のかけそば」分析』は、読む価値がある作品だと思った。

一杯のかけそば」と言って、この作品を覚えている人はどれだけいるのだろうか。
この作品が今、安倍政権による道徳教育推進の最中でさえ、話題にすら上がらず消え去った事実が全てを物語っていると思うが。
*一方でモリカケというキーワードで変にシンクロしているのが面白い。

私は、この批評(パロディ)によって、「一杯のかけそば」を初めて読んだのだが、作者の田舎芝居的な表現、道徳観の押しつけがましさには辟易とさせられた。
(その突っ込みどころ満載のテキストだったから、ポスト構造主義による難解な批評の対象(パロディ)にもなり得たとも思うが)

まったく、この筒井康隆のパロディの対象になったことで、御蔵入りを免れたと言い切ってもいいだろう。

しかし、読み進めていくうちに、

「いかなる金持ちなっても最高のぜいたくはかけそばである」という、ハイデカー的思想が宣伝される。倹約、素朴、気づかいといった全体主義の謳歌。

といった批評や、登場人物の言動をファシズムと評する当たり、正鵠を得ているのではないかと思ってしまったのは、実はパロディと見せかけて、この作品の本質を炙り出した筒井康隆の真当な批評の力なのかもしれない。


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